有機過酸化物の特性と安全対策

OPPSD(Organic Peroxide Producers Safety Division、PLASTICS、US)より、「有機過酸化物の安全性ならびにその取扱い(2018年版)」が発行されています。有機過酸化物の安全性(危険性)とその輸送・貯蔵・取扱い時の注意事項がわかりやすく紹介されていますので、本資料からの引用を含めて、有機過酸化物の特性と安全対策について説明します。なお、有機過酸化物は、その製品形態や使用時において溶剤等で希釈されている場合があり、正確には有機過酸化物組成物といえますが、以下の説明では、これも合わせて有機過酸化物と表現します。

有機過酸化物の特徴的な性質
有機過酸化物には数多くの種類がありますが、その特徴は共通しており、4個の孤立電子対をもつ過酸化結合
(-O-O-結合)の化学構造に起因しています。これらの電子対の反発が結合を大変弱くしており、容易に開裂して2個の遊離ラジカルを生成します。生成した遊離ラジカルは反応性に富んだ中間体であり、モノマーに付加して重合を開始したり、ポリマーから水素原子を引き抜いて架橋やグラフト反応を起こすことができ、これらの特徴的な性質が高分子工業の分野で利用されています。
反面、有機過酸化物の高い反応性は火災や爆発の危険性を含んでいます。一般の化合物よりも低い温度で分解し(熱に敏感)、一部のものは衝撃や摩擦によっても分解し、還元性化合物、酸、塩基、金属などと高い反応性を示して分解が促進されますので、取扱いには十分な注意が必要です。また、有機過酸化物の分解反応では、熱と分解物が発生します。
分解速度は有機過酸化物の種類によって異なります。常温における分解速度の速い有機過酸化物は冷凍貯蔵・輸送が必要となり、分解速度の遅い有機過酸化物は、常温貯蔵・輸送が可能です。
有機過酸化物は、過酸化結合に起因する以下の共通する特性をもっています。

     熱に敏感である。
     分解により遊離ラジカルを生成する。
     分解時に熱が発生する。
     分解時にはガス(分解生成物)を発生してミストを形成する場合があり、燃焼しやすい。
     コンタミに敏感である。
     (特定構造に限定されますが)衝撃・摩擦に敏感である。
     (特定構造に限定されますが)酸化作用を有する。 


1.熱分解
有機過酸化物は熱に敏感で、どんな温度でも分解を起こします。この分解のしやすさと、温度の高まりとともに分解速度が急激に上昇し、その上昇度合が著しく大きいことが有機過酸化物における熱分解の特徴です。有機過酸化物の熱分解は発熱反応であり、分解物が発生します。分解速度が速いほど発生熱量は増大します。
分解時に発生する熱は外部に放散されますが、発生熱量が放散熱量より大きくなると有機過酸化物の温度が上がり、分解をさらに加速する自己促進分解現象が生じます。この現象の制御は極めて困難で、大量の熱と分解物(多くの場合、高温ガス状物質の反応生成物)が発生してしまいます。特に、密封下でこのような分解が発生しますと、高温高圧状況となることから、爆轟を引き起こすおそれがあります。
有機過酸化物の熱分解で生成した遊離ラジカルは、高反応性の不飽和単量体や水素引き抜き源が存在しない場合、有機過酸化物自身や分解物、希釈剤との反応を起こします。ただし、その反応性は有機過酸化物の種類と濃度によって異なります。有機過酸化物自身との反応は分解速度を速め、分解物や希釈剤との反応では、反応相手の種類により速度が速められたり抑制されたりします。有機過酸化物の熱分解速度や半減期は、通常、ベンゼン中で希釈した状態で測定されます。任意の選択が可能な希釈剤では、一般的には極性が高いものほど半減期はベンゼン中の値よりも短くなる(分解速度が速くなる)ことが知られています。
また、固体の有機過酸化物の熱分解挙動には注意が必要です。固体状態では分子運動が制限されるため、分解速度は非常に遅くなり安定化しますが、いったん希釈剤等に溶解しますとその制限がなくなり本来の分解挙動を示して分解速度は速くなります。例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ビス(p-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等は25℃付近の常温でも比較的長期にわたって安定ですが、希釈剤や不飽和単量体などへの溶解によって本来の熱分解しやすい状態となり保冷・冷凍貯蔵が必要となります。
有機過酸化物を一定速度で急速に加熱すると目にみえて分解する温度が確認されます。この温度を急速加熱分解温度(RHDT)といいます。また、有機過酸化物がその市販の包装形態で促進分解を引き起こす(7日間で6℃以上の温度上昇を引き起こす)最低温度を自己促進分解温度(SADT)といいます。 これらの分解温度(SADT/RHDT)の低い有機過酸化物は暴走反応を引き起こす可能性が高く、その貯蔵・運搬には温度管理を中心とした細心の注意を払う必要があります。なお、SADT/RHDTは、希釈溶剤中で測定される半減期温度とは測定基準・目的が異なっており、別尺度であることに留意する必要があります。